• 弦巻楽団

過ぎた過去なら愛しい、失った過去なら切ない。


一週間前になりますが、弦巻楽団#26「裸足で散歩」はなんとか全7ステージを終演しました。

ご来場いただいた皆様、応援してくださった皆さんに改めて感謝します。

弦巻楽団として初の翻訳劇、劇団を社団法人化して最初の公演、ヒロインのオーディションからの抜擢、と初めてづくしの公演だった今回。

困難も多く、自分達の課題がいっぱい発見されました。

青井陽治先生の翻訳はご覧になった方はお分かりのように、一見何の変哲もないようでいてとても現代性に溢れ、やっている僕たち自身稽古中何度も「これが50年前の戯曲である」ということを忘れました。意思表示や愛情表現自体、またはそれに潜むマナーに違いはあれど、人間そのものには違いがないことを痛感しました。

「コメディ」という言葉にどんなイメージを持っているでしょう。

初めて見る方には「物語」がずいぶんシンプルに感じられたのではないでしょうか?

ニール・サイモンのコメディは「あらすじが笑いに専念している」コメディではありませんでした。笑いを起こすためあらすじがうねり、仕掛けが作用し、登場人物たちが右往左往する、そうした上位下達なコメディではなく、あくまで登場人物がいて、欲望に忠実に動き、人物同士が作用し合う様が笑いを生み出していました。

登場人物たちの行動が物語を生んでいく。

自分がここ5年くらい取り組んでいる「書き方」のお手本のようなものがありました。

演じる方はもちろん大変です。

主演の夫ポールを演じた村上義典は当初の思惑通り(?)、翻訳劇であることになんの抵抗も見せず作品に溶け込んでいきました(本人は米国人の意思を表す『語順』に戸惑っていましたが)。硬く、理性的のようでありながら、意固地で素直じゃない一面を持ったポールを村上は見事に表現してくれました。考えてみると、7年前彼と初めて共同作業を行った時、当時21歳の彼に演じてもらったのは70代のお爺さんでした。

飛距離のある役をきちんと客観を積み重ねて演じようとする彼の姿勢がなければ今作は上演できなかったでしょう。

母エセル役の小林なるみさん。昨年からお世話になりっぱなしな訳で、遂に4作品ほぼ連投で出演してもらうことになりました。「今までと違うことにトライさせてもらえる」と謙虚に弦巻楽団に参加してくれるその姿勢にいつも頭が下がります。回を重ねるごとにどんどん「もっと抑えて下さい」しか言わなくなっている気もします。今回もなるみさん曰く相当我慢して演じてもらいました。本番のエセルはとても評判が良く、後半の日程になると現れるだけで笑いが起き、「彼女が主役だと思った」「観客の全てが彼女を愛していたと思う」と沢山の賞賛の声が届きました。それはただ抑えただけじゃダメで、なるみさんのこれまで培った舞台の上での運動神経みたいなものが、抑えた演技の中でも随所で光ったからだと思っています。

最年長であり、駆け出しの若者のようなムードメーカーだった齊藤雅彰さん。大先輩な訳ですが、そんなことを「微塵も」「これっぽっちも」感じさせないのびのびした演技で、度々行き詰まった稽古場の空気を柔らかくしてくれました。彼のシャイな一面からくる反動の自由さ、適当さ(!)は自由人ヴェラスコにうってつけで、青井さんから「一番実際にNYにいそう」との言葉をいただきました。

彼とエセルとのラストシーンはこの作品の中でも、最もさりげなく、最も愛しい一瞬になりました。

そして、今回いきなりの大役だった森田晶子さん。

ほぼ初舞台でありながら出ずっぱり、そして周囲をぐんぐんと翻弄する若妻コリーという膨大なセリフ、アクション、何よりチャーミングでなくてはいけない難役に挑んでくれました。

この役は「裸足で散歩」を上演しようとした際、必ずぶつかる問題でした。

技術で見せるだけでは成立しない、人間的なチャーミングさが必要なこの役を誰が演じられるか。しばらく黙考しましたが、僕には思いつきませんでした。

そこで、助言もありオーディションとなった訳です。

森田さんの思い切りの良さ、明るさ、へこたれなさ(?)、そして何より「包み隠そうとしない」所に僕はコリーの可能性を感じました。

本番、舞台上で笑い、泣き、焦る彼女を信頼できるかどうかが、この舞台の大事なポイントでした。彼女の存在感があって、初めて成立した舞台でした。

そして冒頭、この舞台の設定を台詞なく体現してくれたロードアンドテイラーの伊能武生さん、急遽出演が決まって駆けつけてくれた、そして笑いで物語に緩急をつけなくてはいけない電話工事士を見事に演じてくれた能登英輔くん、二人とも素晴らしかった。大リーグの中継ぎ投手のようなクールな、的確な仕事ぶりでした。本当にありがとう。

いつも素敵な舞台美術をデザインしてくれる川崎舞さん、そしてそれを具現化してくれる上田知くん、どうもありがとう。今回の舞台美術は寒々としながらも温かい、矛盾の極地のようなオーダーだったのだけど、見事にそんな1DKが広がっていました。完璧な。

こうした作品を、こうしたやり方で作っていく困難さをたくさん感じました。

多分方法はあって、もっと完成度を上げていくやり方ならすぐに見つかるような気がします。

でも、そうはしたくない。

弦巻楽団の作品は、今回に限らず突飛なことや実験を重ねて作られているようには見えないかもしれません。でも、内側では随分突飛だったり、無茶だったり、実験を重ねて作られています。

今回の演出にしても、役者は相当努力し挑戦してくれました。普通に見えるためには、普通じゃないことにトライしなくちゃいけないんです。それが今札幌の演劇人が抱えている課題だと僕は思っています。

たどり着きたい場所は、誰かがすでに辿り着いている場所かもしれない。

でもそこにたどり着くのに、今ある方法ではたどり着きたくない。

しかし、その道程は険しいようです。

ひとつひとつやっていきます。

次回は弦巻楽団の中でも随一のウェルメイドコメディ『君は素敵』です。

10年ぶりの再演です。女性ばかりの舞台です。

絢爛豪華に行きたいと思います。

ビョークのようななるみさん。

本番終わったらようやく届いたCD。

編曲が映画版『裸足で散歩』の音楽担当ニール・ヘフティ。

中良し家族。

ワインにご満悦のムードメーカー。

夕陽を浴びながら煙草をくゆらせるカッコ良いなるみさん。

伊能さんの存在感と楽しんでいすぎる能登君。

良い場面。

集中?する森田晶子嬢。

一緒に暮らすことは奇跡。


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